池波正太郎著の「男のリズム」の一節に、ジャン・ギャバンが言っている。
「むずかしいことは、その道の商売人が考えてくれる。人間はね、今日のスープの味がどうだったとか、今日は三時間ばかり、一人きりになって、フラフラ歩いてみようとか・・・・そんな他愛もないことをしながら、自分の商売で食っていければ、それがいちばん、いいんだよ」
著者は「この言葉が大好きだ」と、そして「散歩の醍醐味は、これにつきるのだ」とのこと。日課の散歩ではなく、このような散歩に心の豊かさを感じる。
ドイツの友人が来日し、会食後二人で飲み屋でも言って話をするのかと思っていた。しかし彼は、宿泊先の旅館周辺を散歩しようとのこと。
散歩をしながら、彼の家族のデリケートな問題を淡々と話を始めた。私は内容から推して聞き役に徹することとした。街路灯の白い光しか覚えがないが、30、40分で旅館に戻り、再会を約束し彼を後にした。
テーブルを挟んで、このようなデリケートな話を聞くには少し重すぎるだろう。二人ではあったが、この散歩はとても有効的で印象に残る出来事だったと思い出す。