アメリカのKen FisherやGerald Weberはアンプビルダーの草分けとして有名であり、彼らの名前から検索すれば詳細は得られると思います。友人で真空管ギターアンプのビルダーでもあるA君は彼らを研究し、自分で製作するアンプの参考にしているようです。
そのA君との会話をまとめてみました。(写真は彼の初期の作品)
「Ken Fisherってどういう人なの?」
「元々Ampegのリペアーマンで1000台以上のアンプを修理したそうです。彼の作るアンプのキャビネットは高級家具を思わせるウッド製です。そしてワット(W)あたり世界最高の価格と言われています。しかし惜しくも61歳で亡くなられています。」
「何か逸話はありますか?」
「MarshallはFenderのBassmanを目指してアンプを作っていたが、間違って良いものを作ってしまった、と言ってますね」
「次にGerald Weberという人は?」
「ツイードタイプのアンプが有名でKENDRICというブランド名のアンプを作るブティクメーカーのハシリの人で、Ken Fisherとは友達です」
「先ほど話が出たMarshallについて教えて下さい?」
「Marshallは元々箱屋さんですから、キャビネットは良いです。本人はドラマーで息子がサックスプレーヤーで『マーシャル・ショップ』を開いていた。そして息子の友達たちが出入りをしており、彼らは金が無いのでFenderなど買えず、安いものを要求していた。あるベースマンが12インチのスピーカー4本のキャビネットを注文した。ヘッドは真空管6L6を2本のLEAKというオーディオアンプでした。そしてJTM45を作ったが、実際は背伸びをしており45Wはなく実力は35Wでした。25Wの自己バイアスで、ベース音を出すためクローズドバックの箱を作った。ちなみにJTMのJは本人のファーストネームであるJimで、Tは息子のTerryの頭文字であろう。」
「アンプはどこのメーカーがいいでしょうか?」
「価格順ではFender, VOX, Marshallだが、箱はMarshallが一番いい」
「出力について?」
「昔は出力競争もなく、控えめなワット数を表示していた。MarshallはB電源の電圧を上げ、出力トランスは8KΩを3.5KΩとし、出力管にはEL34を2本使い50Wモデルとした。100Wは基本回路は変えず、出力管はEL34を4本使っている。」
「出力を上げる方法は?」
「まずスピーカーの効率の良いものを選ぶ。3デシベルも違うと音は倍にも感じる。そして電源トランスの2次電圧、出力トランスの一次インピーダンス、真空管そしてバイアス調整をする。」
「高級アンプにはマスターボリュームがついているが?」
「このマスターボリュームを付けてから真空管アンプの良さが無くなったと言える。しかしこのマスターボリュームは、ギタープレーヤーがMarshallを代表する爆音を、小さくまとめることを希望したため生まれたのであろう。理屈ではマスターボリュームを絞ってゲインを上げることで、ヘビメタの歪みを想定しているのだが上手く行かない。自分はKen Fisher方式でフルテンでノーマルの音を出すようにしているのだが、解決策は今の所無い。これは永遠のテーマかもしれない。要はパワーアンプそのものの歪みが出ないことで、対策としてアッテネーターを入れると音が変わってしまう。」
アンプビルダーの世界は奥が深く、その分悩みもあるのだろう。
ブティックメーカーが昔の良い音を求めるため、当時のパーツを選んでいるようだが、真空管アンプも電気製品。使用していれば発熱で酸化が進むし、時間が経てば絶縁材も劣化する。安全面で大事なのは商用電源が入る所の電源トランスなど。これは時間と共に絶縁が炭素化するので古いものは危険である。特に60〜70年代は銅線の皮膜も不均一で、薄い部分からレアーショートを起こす。まして現代のような良い絶縁材もないので、紙をワニス含浸し絶縁階級を上げ(80℃を105℃へ耐熱を上げる)使用していた。しかし伝説的には紙巻きのトランスが良い、との評判だ。紙巻きで一層一層手で巻いてゆくと音が良くなるのは、銅線を巻くテンションに原因がある。
音が入ると電流が流れ、トランスのコイルが一瞬膨らむ。それは耳ではコンプレッサーの感じで聞こえる。だからうちでは、真空管アンプ用のトランスは全て、ベテランが手巻きでテンションをコントロールして巻いている。紙の絶縁材の代用として、ノーメックスやポリエステルフィルムで絶縁寿命を延ばしている。しかしお客様の要望では、クラフト紙やプレスボード紙、そして現在手に入らないコンデンサーペーパーなどの紙絶縁を使うこともある。この要望の主旨は、紙の特性を利用した静電容量対策である。