markdadaoの日記

真空管アンプ用トランス、スマホ用衝撃吸収フィルム、RC、政治経済、読後感想など

Marshall JTM45のうんちく  その1

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 写真The Whoの左の横並びのマーシャルキャビネットとJTM45、右のPetaの2段重ねのマーシャルキャビネットFender Bassman(出典:

The Marshall 'Stack' | Pete Townshend’s Guitar Gear | Whotabs

以前、JTM45の概要を「Marshall Ampのトランスの歴史」でも記載しましたが、弊社技術アドバイザーよりもう一度おさらいをさせていただきます。

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そもそもJTM45のネーミングですが、Jはジム・マーシャル本人、Tは一緒に店で働いてくれている息子のテリー・マーシャルの頭文字、つまりJIM&TERRY/Marshall・・・それと45は45wアンプという意味でつけられたと言われています。彼らの店は若い、あまり金のないミュージシャンの卵達が入り浸っていたそうです。もともとジムはドラマーで、ドラム教室をやり、息子のテリーも10代の頃よりそこそこの人気バンドでサックスを吹いていたそうです。金には困らない、主にジャズミュージシャン達は同じロンドンでもジムの店ではなく、もっと高級な楽器店に出入りしていたとされます。当時のイギリスでは気の利いたベースアンプは無く、輸入物のフェンダーはかなり高額で若者には手が出なかったとか、、、そこで貧乏な若手ベースマンは、間に合わせの真空管アンプを手作りしたり、オーディオアンプを流用していたとのことです。ただしスピーカーキャビネットは適当なものがなく、ジムは彼らのために12インチ4発の、結構ごつくて立派な、とても良質なキャビネットを製作しました。これがかなり評判となり注文が殺到し、本格的にスピーカーキャビネットを作り始めたのです。

 

客達のアンプの要望に応えるため、知り合いで当時ハムラジオにはまっていたケン・ブランにアンプの修理と、オリジナルアンプ製作を依頼することとなります。当時人気が高く、ジム自信も気に入っていた、フェンダーのコンボタイプのベースアンプ(5F6A)と、ほぼデッドコピーしたJTM45のプロトタイプが出来上がったのです。回路はまったく同じ、ただしシャーシは加工しやすいアルミ製で、トランス類を始め使用したパーツは、イギリス国内で手に入るものを使うこととなります。

当時1963年頃、すでに型遅れ感のある5F6A回路を真似ただけのJTM45は、アマチュアが趣味で作ったアンプという印象でしかありませんでした。それでも、まだ食えずにいるクラプトンやザ・フーのピート達にとっては、欲しいアンプを安価で提供したり、わがままを聞いてくれるジムのアンプには、ありがたかったに違いありません。そして、ジム本人製作によるあの堅牢なキャビネットと組み合わされた、更に様々なブラインドラック(偶然の幸運)にも恵まれ、やがてアンプメーカーの大先輩である英国国内のVOXや米国のFenderに追いついてしまう事となります。

多くの評論家達がBASSMAN 5F6AとJTM45の比較検討を、様々な切り口から記事を書いています。彼らが必ず触れる参考文献があり、それは"Circuit analysis a Legendary Tube Amplifier:The Fender Bassman 5F6A"というアメリカのRichard Kuehnelという研究家が書いた解析書です。これは、電子科学の見地から5F6Aの回路を徹底的に解析した論文と言える技術書で、複雑な数式や座標がやたら多く、ただのギターや音楽好きの手に負える書物ではありません。評論家達が決まって取り上げる箇所は、本の終わりの章で触れられている、5F6AとJTM45の出力トランス二次側からのNFB(ネガティブフィードバック)の電圧の違いについてです。フェンダーは2Ωから、マーシャルは16Ωからとなるので、マーシャルのほうが当然ここの電圧は高くなるのです、が。その他にも両者における各所の使用パーツの微妙な容量差が、出力やインピーダンスにどう現れるか、というような計算やベンチテストも含め、かなりマニアックな解析がなされています。

ただし、これはあくまで回路上のいわば机上の論理のようなもので、アンプシステム全体の構造や細かな使用パーツ等に言及しているわけではありません。熱心なギターリストやアンプビルダー達は、楽器としてそれらの全ての要素がそれぞれどんな違いをもたらし、トーンにどんな色付けをしているのかが知りたいはずなのですが。

まず、BASSMAN / 5F6Aですが、10インチ(8Ω)のスピーカーを4発パラレル結線、4kΩ:2Ωの出力トランスとの組み合わせ、キャビネットは現在ベースアンプとしてはまず使われないオープンバック型。当時フェンダーは15や18インチの大口径スピーカーのかわりに小口径10インチを4発とし、トータル表面積で低音をカバーしようとしたと言われています。このオープンバックスタイルと小口径のスピーカーのトーンが、結果として多くのギタリスト達に、ベースではなくギターアンプとして受け入れられる事になったようです。また、アンプ回路そのものも、ベース用ゆえに(トレモロやリバーブ回路を持たない)シンプルであり、ブルース、ロカビリーなどのギタ-リストには扱いやすかったのではないでしょうか?

当初ベースアンプ用に製作していたと思われるクローズドバック・12インチ(16Ω)を、4発シリーズパラレル結線したキャビネットに、アンプ側出力トランス8k(6,6k?)Ω:16Ωとの組み合わせたのがJTM45。当然こちらはコンボタイプではなく、フェンダーでいうピギーバックスタイル。**マーシャルもスタートは完全にベースアンプ(フェンダーベースマンのコピーだから当然ですが)。いつのまにかロックギターアンプの元祖のようにあがめられているのは面白いですね。

もうひとつどうしてもおさえておくべきアンプは、あの「ブルースブレーカー」と呼ばれる、JTM45に真空管を1本とゲルマニュームダイオードを1個追加した、ものの本によれば、クラプトンがJTM45のヘッドとキャビを運ぶのがとても大変なので、「コンパクトで車のトランクに収まるようなやつを作って」とジム・マーシャルに頼んで出来たとのこと。この手の伝説的な話は枚挙にいとまないのでできるだけ触れないようにします。そこで、何故、トレモロ回路そして12インチ・2発のコンボタイプ?と考えれば、このモデルが出来た背景は充分想像できます。

当時英国内でマーシャルのず〜っと先を行っていた、VOX社のAC30に対抗するために作られたコンボアンプと見るのが妥当でしょう。

 

続く・・・・