1929年生まれのビル・カニンガムのドキュメンタリー映画で、2年前に上映された「ビル・カニンガム&ニューヨーク」をDVDで観る。
50年にわたる、ニューヨークタイムスのファッションフォトグラファーを無給でやっているのは、とても常人ではできないことだ。そのワケは「好きなことをするためには、お金に触れたらできない」とシンプルな答え。映画の中では、本人や関係者のインタビューから金言が聞き取れる。
唯一、フランスの文化大臣から芸術文化勲章を授与している。その授与式のスピーチでは、素晴らしい言葉で結んでいる。以下にスピーチ内容を記す。
大変な栄誉を賜り光栄です。
私は働いていません。好きなことをするだけです。仕事ではないのです。
ジャン=ルイはプロですが、私は昔からパリが大好きなだけです。
パリの人々や女性が大好きです。
撮ったのは私ですが、主役は彼女たちです。
私はよく「どうかしている」と言われます。
「洋服しか撮らない」と。
そのために来ているのに。
無料で着飾った有名人に興味はありません。どうでもいい。
それより服を見て下さい。
新しいスタイル、シルエット、色づかい、それがすべてです。
主役は洋服です。有名人でも派手なショーでもないのです。
昔から変わらない一つの真実があります。
「美を追い求める者は、必ずや美を見出す」
自転車を駆使してストリートフォトを。テーマを意図せず、自分の感性に触れたものだけを撮るというスタイルを貫いて50年以上。ファッションという理論ではなく感性の世界で、年齢を超えた活動をしている。
この授賞式の始まる前に、ビルが参加者を撮っていると、このようなやり取りがある。
「自分のパーティーで仕事をするなんて」
「仕事じゃなく、喜びだ」
「だとしてもよ」
「1枚も逃がすもんか」
仕事とは社会貢献と思っていたが、自分の喜びが社会貢献へ昇華できるとは、仕事への概念が変わってくる。収入を拒んでいても、その活動が社会に貢献していると、周りの人たちは活動をするために支援をする。ニューヨークで自転車を20数台盗まれていても、周りの誰かが代わりの自転車を持ってきてくれるような。